09


馬を走らせ、近付いて来た気配に遊士は口を開く。

「どうだった?」

木々の中を黒い影が走り、息も切らせず報告を始めた。

「はっ。松永はこの先にある古寺にて留まっております。斥候達は古寺の柱に縛り付けられてはおりますが皆無事です」

「そうか。引き続き監視を頼む」

は、と短く返事を返し、黒脛巾(くろはばき)は姿を消した。

遊士の後ろで馬を走らせていた小十郎もその知らせにほっと胸を撫で下ろした。

しかし、松永の行動に疑問も残る。

「政宗様の刀が手に入った以上人質を生かしておく理由は…」

「その答え、きっとコレだ」

チラリ、と遊士は後ろを振り返り己の腰にある刀を指した。

六(りゅう)の刀。全て松永が手に入れた筈が、それとは別に存在する。無い筈の物が存在するその特異性に気付いたか、興味を持ったか知らないが遊士と相対した時に何か思ったのだろう。

それならば納得できる。

「では、松永は我々が助けに戻ると踏んでいたと?」

遊士が刀を持ってやって来ると予見していたというのか。

「そこまでは分からねぇが、可能性としては…ある」

彰吾に止められるまで、オレは感情のままに松永に刀を向けていたのだ。

オレがどんな人間か、弱点は何か、頭の回りそうな奴はそれだけで見抜いたかもしれない。

しだいに周りを覆う木々の数が少なくなり、途切れたと思えば開けた場所に出る。

するとそこには仮面を付け、変な格好をした三人組が待ち受けていた。

「来たか…」

「あぁ…」

「仕方ない…」

カシャリと鎧の擦れる音がして、立ち上がった三人は遊士達に視線を固定した。

「鋭く素早く終わらせる。それが情け…」

遊士が知っているかどうかは別として松永軍、三好三人衆の登場である。

「Ham…妙な成りしやがって、オレ達の邪魔をする奴は誰であろうと潰すまで」

ひらりと馬から飛び降りた遊士は刀を抜く。

小十郎も手綱を引き、馬から降りると刀の柄に手をかけた。

三人衆は縦一列になり遊士達に襲い掛かる。

「ちっ、また槍かよ…」

間合いの違う武器を、遊士は刀で弾き上げる。

しかし、その隙に列から飛び出してきたもう一人の槍使いが右側から突きを繰り出してくる。

「はぁっ…!」

ガキンと小十郎の刀がその突きを阻み、遊士に届く事は無い。

今度は逆から刀の奴が遊士に斬りかかる。

次から次へと…、遊士は忌々しそうに心の中で悪態を吐くと振り下ろされた刀に応じた。








攻防を繰り返す中、遊士はふっと細く息を吐き出すと、刀を操る男に一撃を加えた。

「Yeah--ha--!!」

ガハッと空気と血を吐き出し、刀の男が倒れる。

だが、槍を持つ二人はまったく動じない。動じないどころか歌うように言葉を紡いだ。

「一人減ったら一人足す…」

「二人減ったら二人足す…」

「三人減ったらそれで終わり…」

「そして、今日が貴様等の落日だ…」

バッと槍の二人が、自然と背中合わせになった遊士と小十郎に向けて突きを繰り出す。

避ければ後ろに立つ相手に当たってしまう。

パリパリッと刀に蒼い光を走らせ、遊士はそれを正面から迎え撃った。

「こんなとこで立ち止まってる暇はねぇんだよ!」

突き出された槍をガツンと上から刀で叩き、斜め下に刃先を向けさせる。柄の上で刃を返し、寝かせた刀を男に向かって滑らせた。

斜め下から上方に向かって、蒼い光を纏った刀が閃く。

「ぐぁあ――!」

ドシャ、と同時に後ろでも短いくぐもった悲鳴と地面に何かが倒れる音がした。

「遊士様、ご無事で」

「Ya.問題ねぇ。…先を急ごう」

遊士は振り返ることなく答え、刀を鞘に納める。

彰吾とは違った意味で背を預けられる、これ以上頼もしい味方はいねぇよな。

再び先へ進み始めた遊士はまったく背後の心配はしなかった。




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